俺が初めて中国に行ったのは25年くらい前だったと思う。
怖かったわー。
なんかヘマしたらすぐに共産党に連れていかれるような怖さがあった。
今で言う北朝鮮みたいな怖さがあった。
以前、そのときのことを書いていたので少し書き直して転載してみたいと思う。
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昔の中国のDISCO行ったことがある?
行ったことある?
しかも25年位前に行ったから、まだ共産党の雰囲気プンプンの中国よ。
今みたいにオープンな感じじゃないよ。
一歩間違ったら、拉致よ?拉致。
で、パンダの餌になって、はい、さよならーよ。
で、キョンシーになるんだよ。
もう、ものすごく怖かったアルヨー。
って中国風になっちゃうくらい…
ああ、怖。
じゃあ、書いてみようか。
俺はね。
会社を辞める前の年に、職場のみんなと中国に行ったのねー。
その中国旅行はね。
あるテーマがあったんだよ。
「誰が一番すごい体験するか?」って。
だから、ほとんどが自由行動だったわけ。
バラバラのね。
毎日夜中の2時頃にみんなで部屋に集まって話すわけよ。
「今日はこんな体験した。」みたいな…
セミの幼虫を食ったとか、なんか怪しい店で警察っぽい服を買ったとか、危険といわれている地域に潜入したとか…
で、最後の夜が来たわけ。
俺は決めてたんだよ。
中国のDISCOに行くって…
ブルッ!
おー。思い出しただけでも震えがくるよ~。
本当は行きたくなかったけど、中国のDISCOの話を語りたかった。
1番すごい体験をしたかったわけよ。
ところでDISCOってどこにあるんだろう?
ホテルで聞いてみた。
俺が泊まっていたのは当時、北京に2つしかないファイブスターホテルだった。
英語が通じる。
「DISCOってありますか?」
「アルよ。」
「名前教えてください。」
「バナナボート。」
「サンキュー。」
安全なのだろうか?
だって、「るるぶ」やら「地球の歩き方」にはDISCOの情報がまったく載ってなかったから、様子もわからないわけよ。
とにかく、目指すはバナナボートだ。
バナナボートに行って、一曲だけ踊って帰ろう。
いや、0.5曲踊って帰ろう。
いや、一瞬だけ踊って帰ろう。
それで踊ったことには違いないんだから…
参加することのみに意義がある。
自慢話をしたいだけなんだから。
ホテルからタクシーに乗った。
脈が1分間に200ほどになってたさ。
「バナナボート プリーズ。」
「えっ?」
だから聞き返すなって!怖いだろうがよー。
「ディスコ バナナボート プリーズ」
「OK.」
街の明かりの中を30分くらい車に乗っていた。
何度やめようと思ったか…
一応、死体になったときのために「ばななぼーとにいきます。みかみいちろう」ってひらがなで紙に書いてポケットに入れておいたよ。
誰の死体かわからないと困るじゃん。
さらに、少しでも情報が欲しかったからね。
タクシーの運転手に色々質問したさ。
その運転手さんも、自分が知ってる情報をささやかながら教えてくれた。
…若者に人気のDISCOらしい… 終わり。
本当に知ってるかの疑いたくなる情報だったが、これが情報のすべてだった。
でも、ないよりマシだ。
しかも、安心そうな情報じゃん。
だって、若者に人気があるって雰囲気が悪くないはず(ちょっと疑わしいけど…)。
そしてバナナボートの前に到着した。
闇夜の中にBANANA BOATという不気味なネオンサインが怪しく浮かんでいる。
ここか…
少しずつ、ネオンの下に視線を落としていった。
『!』
降車拒否したかった。
乗車拒否じゃないよ?
降車拒否よ。
降りれんよ。
あれを見ちゃあ…
降りれる?
ヤツらに近づけるか????????
あー。こわ。
全身の水分がしっこになってちびりそうだった。
1秒で即身成仏できそうだ。
な、なんと緑のモヒカン頭のヤツとか、ギャングみたいなヤツとか、もうすごいテンションだ。
ピアスなんかいろいろなところにしてるヤツとか…
共産圏のお国でこれは..
中国の不良が大集結。
俺の命は大終結〜(おいおい、ラップじゃないんだから…)。
変なタバコを吸ってるヤツや、とにかく最悪時代の池袋の共産国版!みたいな感じ。
あの場所に近づけるか?
善良な小市民だぜ。こっちは…
「戦えばいいじゃない?」
正気か?
あいつら絶対にまともそうじゃないし、あの人数だぜ。
暴走族の集会どころの危険度じゃないよ?
拉致されたら終わり。
ま、その前に刺されて終わりだけどね。
「は~。」
見栄のために命はれる???
ただ、ひとつだけ、俺にはただひとつだけ頼れるものがあった。
それはこのマッハの足だ。
もし、何かあったら、なりふり構わず全力で逃げよう。
まさかあんな総装飾不良集団の中で、俺より走るのが速いやつがいるとは思えない。
バイク使われても、道路には植え込みもある。
ギザギザに逃げれば大丈夫だ。
靴ひもをしっかり締めて、タクシーを降りた。
さあ、勝負だ。
…しかし、世界には勝負できることとできないことがあるってことを思い知らされるのであった。
中国4千年。
俺の命4千円(だからラップじゃないって)。
は~。
仲間のふりして近寄っていった。
ちなみに俺ひとりだけとってもオシャレだった。
とにかくこいつらのクソど派手センスなしファッションとは種類が違うのだ。
見ただけで、異質ってわかる格好なのだ。
資本主義社会ファッションがバレてしまう。
ぶっ飛ばすぞてめえら!のオーラを全身に放ち、なんとなく並んでいる列に、俺も加わった。
みんなそれぞれが中国語で話しているが、俺だけ何も分からずただ列に並んでいた。
もうすぐ俺の番だ。
お金の払い方を把握しておかねば…
ジャパニーズだってバレてしまうかも…
日本人がこんなところに来るんじゃねえ、袋叩きにされるかもしれない。
列の先のあまりにも小さな宝くじ売り場みたいな所で、お金を払って入場している。
とにかく料金がさっぱりわからない。
集中したのだが、どうも人によってお金が違うようだ。
仕方がない。
例の得意技でいこう。
俺はボケたふりして1万円くらいを出した。
そして指で「俺一人だけね。」
しゃべらないのがポイントだ。
受付のババア。
何か中国語でガンガン聞いてくる。
後ろの不良に悟られるだろうが...
俺が資本主義国から来てるスパイだってことがよお。
「パードン ミー?」
英語を出してしまった。
これで中国人じゃないことがバレてしまった。
なのにババアは、ガンガンまくし立ててくる。
そのうち、後ろの怖い兄ちゃん達が
「おら~!てめえささっとやれよ!」「何やってんだよ~。この外人野郎~!」
みたいな感じですごんできた。
後ろのヤツから軽いひざ蹴りとかを食らわせられ始めている。
もう、しっこが半分漏れていた。
このままだと、異国の地でいじめにあってしまう。
「蹴るなよ、この野郎?」自分を保つだけで一生懸命だ。
こんな言葉の通じないところで、なすすべもない。
あまりにすごまれて、俺がかわいそうだったのか、おばさんはおつりをくれて
「あんたみたいな意気地なし、さっさとお入り。」
って雰囲気で店の中に逃がしてくれた。
その後、入場券を出してエレベータに乗ったのだが、そのエレベーターってのがもうギャング一味みたいな感じですっごい嫌だった。
ナイフで刺されそうだし、銃で撃たれそうだし、ものすごく怖かった。
エレベーターが開いてからはもっとびっくりした。
マジで驚いた。
タバコであたり一面が煙ってるのだ。
で、もうギャングの巣窟としか形容できなかった。
黒っぽい服を着たいっぱいの人で向こうが見えない。
すごいサウンドなのだが、踊ってる人はいない。
ラリってる感じだった。全員が…
ラリってるってわかる?
全員がクスリやってて、目が飛んでる感じ。
トランス状態だね。あれは…
今日だけで2~3人は行方不明者がでててもおかしくないね。
天井の雰囲気から煙の向こうにダンスフロアがあるのがわかる。
向こうに行って見てみたい。
でも、狭い通路の両端に人がいっぱいいて、一人通れるかどうかのすきまをかき分けて向こうに進んでいかないといけない。
とりあえず、フロアまでたどり着きたい。
意を決して、前進した。
すると…
タバコの火をわざと俺に当たるように持ち替えてくる。
焼きたいのか?度胸試しなのか?なめられてるのか?
そうまでして前進する意味がある?
でも、前進したさ。
はっきり言っていい?
ここで乱闘になったら、1対500プラス武器で0.01秒で抹殺されるよ。
いくら俺様の俊足を持ってしても、逃げ切れんよ?
一緒に中国に行った職場の人たちが、捜索願を出してくれても、きっと見つからない。
だって、実は今みんながさっき食べたスープ。
そのダシが俺だったんだものー。
で、とにかくひっかけてくる足をよけながら、タバコのヤツはガンを飛ばしながらそいつの体を俺から離れるように押し返しながら進む。
フロアにやっとたどり着いた。
「なんじゃ?こりゃあ。」
ダッサい踊りでみんなが踊っていた。
通路とのギャップが…
ここに俺が入って踊ったら、1秒で惚れるよ?
チャイニーズギャルの皆さん。
惚れる?
フロアだけは安全だ。
ここだけはみんなが踊っている。
ってなわけで、俺のスーパーダンスを炸裂させてみた。
みんなの視線に耐えられないので、目をつぶって陶酔状態でダンシンしてみた。
やっとたどり着いたダンスフロアーだ。
丁寧に喜びを味わいたい。
決まった。
決まりすぎ。
途中からその曲が終わるまでなので、1分ちょっとくらい。
あー。それで十分。
で、みんなからの羨望のまなざしを浴びるために、そっと目を開ける。
…シカト。
シカトかよー?
ごるらぁぁぁ。
日本のデスコキングが来てるんやで?
もう嫌だ。
脱出だ。
緊急脱出だ。
もうダメ。
いられない。
存在意義がない。
あの通路を再び戻る。
さっきとは表情が違う。
半泣きだ。
顔が泣きべそのまま、エレベータに到着だ。
急いで人ごみを掻き分けた。
「早く閉まれ。早く閉まれ。早く閉まれ。」
また、ギャングと乗るのは怖すぎる。
閉まった。
今度は一人だ。
ふ~。
安堵だった。
1階に到着するや否や俺はダッシュでそこを離れた。
300メートル以上走り続けた。
少し泣いていた。
気温は氷点下だった。
汗ばんでいるのもわかる。
あのDISCOより、得体の知れないこの路上の方が10万倍安全だ。
ここは走って逃げる場所がある。
暗闇にタクシーが見えた。
そのタクシーをとめた。
「わんふーひゃんでん。」
「王府飯店(ホテル)?」
「やー。」
俺は無事に帰還した。
気分は大冒険を終えたヒーローだった。
でも、怖かったっと。
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その25年後にテンセントやアリババが日本企業を軽く凌駕してくるとは夢にも思っていなかった。
日本は将来発展途上国になると言われている。
どうやって生きるのが一番ハッピーだろうか。
ときどき考えてしまうのであった。