みかみの国の王様

お前はお前。俺は俺。

監督になりたかった...

今は相撲部に入りたいくらいの体型なのだが、中学時代は陸上部の長距離選手だった。

 

ある先生がその中学に赴任されたことで、その陸上部は殺人的に強くなった。

 

俺は何も知らずに陸上部に所属していた。

 

あまりの強さに県内では無敗で、全国大会に行く同級生が何人かいた。

 

そのうちの一人は、高校生になりインターハイで全国優勝したほどだ。

 

 

俺はそこまで速くはなかったので、レギュラーではなかった。

 

陸上のお誘いもなかったので、地元の工業高校に普通に入学した。

 

そんな俺でも普通の高校に行けば、1年生の時からレギュラーだった。

 

その高校は県では3〜4番くらいの強さだったことから、中学がいかに強かったかわかるだろう。

 

 

さて、俺は中学と高校、社会人と陸上をしてきたわけなのだが、ずっと高校の陸上部の監督になりたかった。

 

俺なら全国大会に行けるチームが作れるとずっと思っていた。

 

 

中学時代の俺が結構、きつかったセリフは「試合でもう使わない。」と言われること。

 

辞めた生徒を指して「あいつはケツを割った。」と言われることだった。

 

こんなに苦しい練習をさせられてるのに、試合でもう使わないとは、なんて横暴なんだろうと思うと同時に、それだけは勘弁して欲しいと思ってた。

 

また、辞めたい辞めたいと何度も思っていたのに、辞めたやつのこと「ケツを割った。」と表現されると、すでに割れている俺のケツは何個になるんだろうかと思ったりした。

 

俺的にはケツ割男の称号を与えられるのは屈辱だったので頑張って続けた。

 

 

塾の先生をやりながら、「お前はもう試合に出さない。」と言えたらどんなにいいだろうと思ってきた。

 

その言葉を言えたら、勉強の責任が相手に渡るので「誰かのために勉強している。」とか「やらされている。」という考え方を減らすことができると思うのだ。

 

俺の教えている教室は、賢い子しかいない。

 

勉強ができない子は「教科書の太字を覚えましょうね。」で、ある程度上げられると思うが、賢い子は太字なんかすでに覚えているのだ。

 

だから、メンタルの戦いになってくる。

 

一発で100個覚えるか、120個覚えるかとかいうレベルの戦いだ。

 

 

そしてふと考えると、監督のような仕事をしていることに気づく。

 

「1000メートルのインターバルを5本。」

 

これは誰でも言うことができるが、その練習にどういう意味を持たせるかで、伸びが変わってくる。

 

「全力で走れ」と言うのか、「こうしたら速く走れる」と言うのか、「これが全国大会のはじめの一歩」だと言うのか。

 

生徒がどこを見て走るのか、何を信じるのか、自分はどれくらいの力だと見積もるのか、そういうのは監督の声の掛け方、そして監督が作り出すムードで決まってくると思う。

 

 

冬休みになり、毎日生徒と一緒に勉強する中で、どうやったら一人一人の生徒を伸ばすことができるだろうと悩みながら授業をしている。

 

塾の場合は、全員レギュラーで全員が主役の戦いだ。

 

ダッシュのある子、粘りのある子、ボキャブラリーが少ない子、真面目にやりたくない子、いろいろな子がいる。

 

だけど、俺の仕事が監督業だと考えるのなら、今、俺は昔からなりたかった夢が叶っていることに気づく。

 

 

みんなが伸びて自己新記録が出せるような監督になりたいと心から思う。

 

センターまで、そして入試まであと少し。

 

 

全力で頑張りたい。