みかみの国の王様

お前はお前。俺は俺。

酒の漬物......それは俺。

「酒を飲むのは人間のクズだ。」

 

俺の祖父の口癖だった。

 

酒飲みの親父に苦しめられた祖父は、酒飲みを嫌っていた。

 

「いちろう、お前も酒なんか飲むなよ。あれはクズがすることだから。」

 

何度も何度も言われていて、酒を飲むのはクズなんだなって思っていた。

 

 

会社に入ってすぐ、上司に聞かれた。

 

「君は酒は飲めるのか?」

 

「僕は酒は飲みません。」

 

「飲めませんだろう。」、鼻で笑われた。

 

 

酒を飲むのはクズなので、俺は酒を飲む人を嫌っていた。

 

でも、会社では「付き合い」という名の飲み会がある。

 

 

最初の飲み会は、陸上部の飲み会だった。

 

会社が駅伝を強化するとかで、県の高校チャンピオンと2位を引っ張っていた。

 

俺は陸上を続けるつもりはなかったのだが、どうしても駅伝で優勝するために選手が必要だと半分無理やり陸上部に入れられた。

 

「短い区間しか走らないこと。1年で俺の代わりを見つけること。」それを条件に俺は1年間だけ陸上部に所属したのだ。

 

そこでビールを注がれた。

 

....苦い。

 

口に入れたものの、飲み込むのに時間がかかった。

 

頑張って少し飲むと誰かがまたグラスにビールを注ぐ。

 

そして満タンな時でも構わずにビールを注ぎに来るから、少しでも減らさないといけなかった。

 

 

職場でも同じことだった。

 

これが大人の世界かよ。

 

18歳の俺は、明らかに法律を犯していると思いながら、ビールに少しずつ慣れていった。

 

5〜6回の飲み会を経て、会社の夏祭りに参加した。

 

 

同級生の女の子が紙コップに入っているビールを飲んでいる。

 

「げっ、あいつはビールが飲めるのか、すげえな。」

 

しばらくそいつと話していると、そいつが

 

「はい、あげる。」、俺に飲みかけのビールを渡して、ステージに上がっていった。

 

ステージでは新入社員の浴衣披露ショーをやっていった。

 

 

俺はそいつから受け取った、大きめの紙コップに入ったビールを飲んで、「ちょっとだけビールもうまいかもしれない。」そう思った。

 

それから、俺はビールを飲めるようになった。

 

だが、20歳の時に禁酒することになった。

 

大学受験をするためだ。

 

勉強漬けの毎日、飲み会に行く時間、いやそれどころか酒そのもののを飲む時間なんかあるはずがない。

 

その2年後、大学に合格しまた時々酒を飲むようになった。

 

一番飲んだのはいつだろう。

 

きっと37歳くらいの頃かなあ。

 

東京で飲んで大阪で飲んで新潟で飲んで石川で飲んで....

 

毎日毎日、居酒屋で飲み続けた。

 

税理士から、「飲み代を200万円くらいに抑えてもらえないですか。」突然言われてびっくりした。

 

今は200万円分も飲んでいないと思う。

 

 

でも、酒のない人生を送ってたら、家一軒くらい買えたなって思う。

 

 

 

でも、ラオウは言う。

 

「我が生涯に一片の悔いなし。」