生徒がバンバン入ってきて、教室の数も増えた。
ところが一緒に働いていた先生たちが怒っている。
「みかみ先生、一体どれだけ生徒を増やすつもりですか?」
「うん?いけるところまで。」
「こんなスカスカなやり方でいいと思ってるんですか?」
「しょうがないじゃん。大きくするときには必ず起こる問題なんだから。」
「これで、愛を込めてみかみ塾って言えるんですか!」
実は俺も苦しんでいた。
生徒が増えるということはものすごいパワーがいることなのである。
授業中なのに電話が鳴る。
体験が毎日来る。
入塾がほぼ1日1人のペースで来る。
何よりきつかったのがクラス分割なのである。
生徒が増えるとクラスを分けないといけなくなる。
例えば、最初Aという先生が教えていたとしても、クラスを分けるとAとBという先生になる。
つまり、Aの先生のままのクラスはいいが、AからBの先生になったクラスの方に不満が残るのだ。
あまりにも入塾の速度が速いために、AからB、Bからと短期間で先生がどんどん変わっていく生徒が出てきてしまう。
そういうクラスになった子供の親御さんからは当然クレームが入ってしまう。
俺らは仲が良かったので、授業がすんでからも毎日数時間、生徒のことを話していて残っていた。
だから、お互いの生徒の雰囲気はそれなりに把握していたのだが、それでも急拡大による弊害は確実にあった。
だからと言って、もしここで入塾のペースを落とすと、県で1位になることが非常に難しくなってしまう。
勢いというのは極めて重要なのだ。
つまり1位を捨てるのかという岐路に立たされる決断を迫られている。
だが、仲間は宝だ。
愛を込めて...という信念に集まって授業している塾の社長である俺が、愛を込めない授業をしてはいけない。
「.....わかった。募集を打ち切ろう。」
俺は、自分の目標であった県制覇をここで断念した。
全教室全生徒募集を停止します。
これでいい授業ができる。
でも、何か辛いことがあるたびに、あの時のことを思い出して一言言いたくなる気分が1年くらい続いた(だけどこの選択は正しかったと思っている、みんなありがとう)。
と同時に俺のパワーの原動力が半分くらい失活してしまい、企業を辞めてから馬車馬の如く突っ走ってきた俺のオーラが消えた。
そして、俺の心は彷徨い始めた。
矛盾していたが、飢えた俺の血が次なる目標を探し始めるようになっていた。
「せんせー。お願いがあるんですけど。」
中3のあいこちゃんのお母さんが、いきなり塾に来られた。
..........これがみかみ一桜、第2章の幕開けだった。