「せんせー。明日東京でテストがあるんですけど、塾に泊まっていいですか?」
「あれ?親戚が東京にいるんじゃなかったっけ?」
「ギリギリまで頑張ってやりたいんです。」
俺がまだ東京に教室を出してた時の話だ。
東京の塾は不思議な塾で、塾の日はなぜか女の子たちが泊まって次の日の昼に帰るというまるで合宿所のようだった。
シャンプーを各自が持ち込み(みんなで同じのを使え)、替え用の下着とかも勝手に塾に置かれて、おっさんたちにこの環境を売ったら1泊10万円にでもなりそうなすごいところだった。
ただ、現実は全員が受験生だったのでヘトヘトだった。
夜中の3時くらいまでみんなに勝手に勉強されて(部屋が一つしかないから、みんなで一緒じゃないと寝ることができない)、朝は7時くらいに起きてすぐに勉強を始める。
おいおい、俺まで巻き込むなよ。
週に1回だけ極端にリズムが乱れる日だった。
その後、全員でなか卯まで歩いて行って飯食ってまた勉強。
時々県外の他の教室の子も泊まりに来る。
そして東京の生徒たちと自然に仲良くなって、合宿所の輪が広がる。
県外の教室の生徒が前泊したいという。
確か、塾の日じゃなかったんだよ。
だから、誰もいなかった。
俺は昼に会議があって、東京の塾に寄っていた。
マジで?
受験生と泊まるのは気を使わないといけないからきついのだよ。
とてもかわいらしい女の子だった。
昼頃、大荷物でやってきて、家着のジャージに着替えて勉強を始めた。
俺はゆっくりしてから会議に行きたかったのに、部屋が一つしかないから問題でも解くしかない。
先生はいつも頑張ってるように見えないといけないのだ。
しばらくして後ろを見たら、その子が机で寝ている。
明日受験だから、まあいいか。
そう思っていたが、1時間くらい経過したところで「ゴラー!ぶっ飛ばすぞ!!」
「そういう気持ちのたるみが、受験生の神様の逆鱗に触れるんじゃ、ボケが!」
泣きながらその子が勉強を始めた。
俺は会議があったので、外出した。
会議が終わって、すぐにその子に電話した。
変なメンタルになってないだろうか?
家出していないだろうか?
明日受験なのだ。
...出ない。
何回かけても出ない。
俺は全力でタクシーを飛ばした。
1万円近くしたと思う。
電車なら安かったのに。
戻ってみて、驚いた。
その子は静かに寝ていた。
机で。
まるで教室の中だけ時間が止まってるかのような穏やかな空間になっている。
「おらあああああ!ぶっころすぞー!」
「お前が机で寝るというくだらない習慣をつけてるから、こんなことになる。次寝たら叩き出すぞ。」
夕飯を食って、勉強を始めた。
俺なんか、休みたいのにその子が来たために、こんなに問題解いてるってのに、1時間くらいしてその子を見た。
........俺はそこにあった椅子を投げつけていた。
「もう勉強するな!明日も受けに行くな!」
そんなに寝たいんなら寝ろ!
布団を敷いて電気を消した。
その子は泣いていたが、俺はもはやこの勉強には意味がないと思っていたので、本気で寝た。
次の日。朝起きたらその子も布団を敷いて寝ていた。
俺の気配に気づいて目を覚ましたが、昨日相当泣いたんだろう。
目が信じられないくらい腫れている。
「今日は受けに行くなよ。」
「行きます。」
「行くんなら、俺が落ちるように全力で祈るかなら。」
そして、大荷物を持って受験会場に行った。
結局3つの大学を受けが、俺に怒られた日の大学にだけ合格して、そこに入学した。
俺は机で寝るなといつも言っている。
くせになるからだ。
どうせ寝るんなら、ベッドで寝た方がいいに決まってる。
きっと俺は他の先生よりも机で寝ることに寛容ではない。
机で寝ることをくせにさせるわけにはいかない。
机パブロフになってしまう。
「机で寝るな。わかったか?」
以上。